思えば、売られて利用されて捨てられるばかりの人生だった。
オートで飛行する蜃気楼の中、ルルーシュはぼんやりと自分の人生を振り返った。
死の間際、幼い頃からの記憶を走馬灯のように思い出すというが、もしかすると今の自分はその状態にあるのかもしれない。怪我をしているわけではないし、病にも冒されていない。この数日ほとんど食事をしてないため栄養は足りていないかもしれないが、人間は水さえあれば一ヶ月は生きられるはずだ。だから、まだ死は訪れない。
少なくとも、肉体には。
けれど精神的には、もう瀕死の状態だった。それは自覚している。
――――思えば、売られて利用されて捨てられるばかりの人生だった。
父であるブリタニア皇帝に妹ともども捨てられ、日本に売られ、その先でも裏取引の末に殺されそうになった。
命は助かったものの、期限付きとはいえ唯一生きることのできた小さな箱庭は親友の手で崩れ始め、あげくその親友にも売られた。出世のために。ああ、そういえば。奴の父親もブリタニアでの地位と引き換えに自分達を殺そうとしたのだったなと思い出して笑う。あんなに嫌って憎悪しているのに、やることは同じかとおかしくなる。
そして、味方であったはずの黒の騎士団。
まあ、これは仕方のないことだろう。彼らはレジスタンスではあるが兵士ではない。戦えるだけのただの一般人だ。駒扱いされて怒らないはずがない。駒として扱っていたのも事実だ。ただ、その駒に対しては多分に情を持っていたけれど。でも信用はしていなかった。できなかった。だから信用されないのは当たり前。「ゼロ」という記号。象徴。感情のある人間と思われないのも当たり前。
自分にいえたことではないが、彼らは感情に走りすぎ、ブリタニア人の子供が「ゼロ」だなんて絶対に認められないと思ったから。それに怖かった。今更だが怖かった。日本人にはいい思い出がない。寄ってたかって殴られて蹴られて毒を飲まされた記憶。罵倒されて怒鳴られて唾を吐かれた記憶。毎日、毎日。そんな思い出のほうが強かったから。仮面を被ったのはブリタニアに正体を知られるわけにはいかなかったのもあるが、何よりブリタニア人と知られるのが怖かったのかもしれない。またあの頃のように石を投げられるのは嫌だった。
ああでも、桃を売ってくれた老人達は優しかった。スザクも、あの頃はいい友達だった。
友達だった。友達だと思っていた。でもまた売られた。あいつにとって自分はその程度の存在。憎いなら殺せばいいのに、その労力すら惜しいのか。
黒の騎士団にも売られて、これ以下はないと、そう思ったけれど。
もう慣れてしまったから、何も感じないと思っていたけれど。
「まさか、こうくるとは」
くつくつと、笑いが漏れる。
この状況なら自嘲となるはずだろうが、むしろ無邪気な笑いだった。
だって、そうだろう?
「貴女にとっても、私は駒でしたか。母上」
死んだはずが生きていた母親。肉体は間借りしている状態だから、正確にはやはり死んでいるのだろうが、でも。
「生まれた瞬間から駒でしたか。皇帝との取引にでも使うために?」
何の目的があってそんなことをしたのかは知らない。コーネリアの記憶は皇帝によって書き換えられたものなのか。ナナリーをかばったのは嘘なのか。
何が真実で何が偽りなのか、もう何もわからない。
信じられない。
――――限界だった。
ルルーシュは、蜃気楼のシートに背中を預けると、先ほどから点滅しっぱなしの通信ランプに視線をやった。色は紅。識別は紅蓮弐式。
電源を切って放り投げたままの携帯も、おそらくリヴァルからの着信で埋められているだろう。それかミレイ、カレン。‥‥‥スザク。
そのどれにも反応せず、ルルーシュはぼんやりと障害物のない茜色の空を見やる。もうすぐ夜が来る。
皇帝を殺しそこね、母親の真実を知り、C.C.の感情のない煤けた視線に晒されて、ルルーシュの精神は限界だった。
唯一聖域であったはずの死者にすら裏切られて、もう限界だったのだ。
誰の声も聞きたくない。顔も見たくない。
「だから、すまない。カレン」
君も裏切るのか?と、そう考えてしまう自分を。
「悪い、リヴァル」
リヴァル、おまえも俺を売るのか?と、そう思ってしまう自分を。
でも、もう限界だから。駄目だから。
「なんだかもう、疲れてしまって」
だから。
ルルーシュは、静かに目を閉じる。
蜃気楼はゆっくりと高度を落とす。
青い青い、海の中へ。
ルルは幸せにせんといかんーっ!と思いつつも、マリ様ショックから何故か書いてしまったルル死にネタ(汗)
いや、黒幕濃厚とは予想してましたよ? マリ様。でももう死んでるし、それなら真実を知ってもまだ・・・思ってたので、現在進行形で生きたおられたらルルのショック倍増しじゃ・・・(涙)
一部小説設定挿入。
今後の展開次第では下げるか書き直します。
(08.08.31up)
追記
て、書き上げたその日にそれかよマリ様っ!?!
いっそ清々しいまでに捏造になったのでこのままにしておきます(-_-;)